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お坊さんの小話(法話)
〜浄土真宗〜

其の四十六
【愛…深き故に…】
[2010/08]

 『なんて!親不孝な子なんね!』お通夜の会場に急ぎ入ってきたご婦人が喪主の女性に向かって叫んだ。どうやら喪主の親族らしい。理由あって母子家庭。母と息子と娘の三人家族。女手ひとつで育ててきてやっと少しは楽になるかなぁと思えたやさきの息子さんの死であった。癌…24歳の若さでは、発見されたときにはもう手の施しようがなかった。母親の悲しみたるやいかほどのものか!それは想像することも出来ない。その母親に向かっての一言である。

 確かに、昔から『親より先に逝くのは親不孝ものだ』とは、よく言われる言葉ではある。しかし、それは逆縁(親が子の葬儀を出すこと)が、いかに裟婆に残った親に深い悲しみと絶望を与えてしまうかを知りなさい!そしてその事を自覚して、出来るだけそうならぬように生活しなさいと云う子として生まれたものへの戒めである。本当に親不孝な子と云うわけではない。と同時に、そんな事をぬきにしても、子供を亡くした母親に、それも最初にかける言葉ではないだろう。

 何を話したらよいものか?何を伝えられるのか?通夜の法話を考えあぐねていたが、この親族のご婦人の一言で決まった!『これ』について話そうと!

 金沢では、通常通夜のお勤めは二回。初めに阿弥陀経、一度休憩をして次に正信偈を勤める。法話はこの阿弥陀経読経の後におこなうのが通例である。

 『少しお話しさせていただきます』そう挨拶をして話し始めた……親より先に亡くたった子供は親不孝な子でしょうか?子供を亡くすと云うことは、確かに身を引き裂かれるような辛く悲しい出来事です。けれど今亡くなってお棺に入り横たわっているこの子は、親不孝な子でしょうか?

 こんな『お話』があります。今ここに、重い難病で子供さんを亡くした二人の母親がいます。10年すぎた今でも、当たり前のことですが、その悲しみは癒えることはありません。ますます深くなるいっぽうです。ある時二人の母親は、子供が亡くなった難病に劇的に効く特効薬が発表されたことを新聞で知ります。二人ともその新聞記事をお仏壇に供えずにはおれませんでした。一人の母親はこう言ってお供えします…『10年前に、この薬がありさえすれば息子は死ななくてよかったのに!なんて悔しい!この薬さえあれば…なんでもっと早くこの薬を作ってくれなかったのか!なんで…なんで…死ななくてよかったのに!』と。もう一人の母親はこう言ってお供えします…『やっと…あなたの病気を治す特効薬ができました。これであなたの死が報われます。この薬はあなたの死が作らせたのだから。この薬はあなたが作ったんですよ。あなたはお母さんの自慢の息子です』と。

 前者のお母さんなら…亡くなった息子さんはずっと親不孝な息子のままです。親を悲しめ苦しめ辛くさせる。けれど後者のお母さんならば…亡くなった息子さんは親が誇れる親孝行な息子さんになっています。悲しみが無くなったわけではありません。寂しさが消えたわけでもありません。けれど、二人の母親の思いは正反対です。どうか親に先立つ子供を、親不孝な子にしないでください。出来るなら…あなたの死は辛く苦しいけれど…あなたが生まれたから…私は母をさせてもらった。母親としての喜び楽しみを得させてもらった…ありがとうと合掌しておくっていただけたなら…そう願って通夜のお話とさせていただきます。喪主のお母さんの表情が、少しだけ和らいだように見えた。ほんの少しだけ…。

 人を愛し大切に大事に思っていくことは素晴らしいことです。親が子を、子が親を、夫が妻を、妻が夫を、彼氏が彼女を、彼女が彼氏を…友達を、ペットを、思い出の全てのものを、故郷や風景など…あげればきりがないほど『愛』は、その間にあふれています。だからこそ、時としてその『愛』は『苦しみ』に変わります。愛深き故に…。浄土真宗の教えはこの苦しみに陥ったときに、苦しみだけをみないでくださいと教えます。どうか、その苦しみの深さだけ、それと同じ深い愛に包まれていたことに気づいてくださいと、苦しみが深ければ深いほど…包まれていた愛も深いのだと教えます。

 この教えをどうぞ、私も含め頭の隅に覚えておいてください。必ず、自分が生きているかぎり、愛する人との別れはくるのですから。

合掌

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