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お坊さんの小話(法話)
〜浄土真宗〜

其の五十八
【三つの言葉】
[2011/12]

 言葉とは恐ろしいもので、その言葉ひとつで、人を勇気づけることも、絶望に追いやることもできる。友達や恋人、妻や夫の一言で、崩れそうになる自分が支えられることもあれば、逆に暗闇の中に落されてしまうこともある。昔から、言霊と言って、言葉には魂が宿ると言われてきました。それは、本当に魂が言葉に宿っているのではなく、そういわなければならないほど、言葉に強力な『力』があることの比喩なのです。

 何事も後ろ向きに考えて、すぐ落ち込んでしまう人がいます。ともすれば、そのままウツになってしまう人も…。そんな人に、セラピスト・心理学の先生は何と言ってアドバイス・治療するかご存知でしょうか?

 実は言葉で治療するのです。ここにすぐ『しんどい、しんどい』と口癖になっている女性がいます。身体がしんどい、心がしんどいと言って落ち込んでしまっている女性です。

心理学の先生は、この女性に優しくお願いします。『しんどいと言う口癖をまず止めてみませんか?変わりに、ありがとう・ごめんなさい・しあわせと言う三つの言葉を出来るだけ使ってください』と…。もちろん、すべての人に効果があるわけではありません。ちゃんと薬を飲まなければならない人もいます。けれど、ほぼ、ほとんどの人が前向きになれるそうです。

 なぜ?でしょうか…

 たった三つの言葉を口癖にするだけなのに…

 しんどい・しんどいと口癖のように言っている言葉は、当然『しんどい』という言葉になって自分の耳に聞こえます。毎日毎回いつでも『しんどい』という言葉が耳から身体に入ってきます。するとどうなるのでしょう…恐ろしいことに、本当に身体がしんどくなってしまうのです。本当に身体がしんどくなれば、口から出ていた『しんどい』は、いつしか『つらい』に変わっていきます。そして同じように耳から身体に『つらい』という言葉がなだれこみ、『つらい』は次に『苦しい』に変わってしまうのです。こうなれば、後はもう苦しくなる一方です。耳から身体に『苦しい』しか入ってきません。身体も心も苦しくなり、もっとも選んではいけない選択を選んでしまうようになってしまうかもしれなくなるのです。

 植物にも感情らしきものがあることは、長い研究の結果であきらかにされています。サボテンに毎日毎日朝昼晩と、優しい言葉や誉め言葉をかけ続けると、とっても綺麗な花を咲かせるそうです。逆に罵事憎言、憎しみを込めた言葉をかけ続けると、花を咲かせるどころか、なんと枯れてしまうそうです。サボテンでさえそうなのですから、人ならもっと出はないでしょうか。自らがはきだす言葉によって自らがむしばまれてしまうのです。先生の治療はこの逆を身体と心におこなおうというものなのです。

 『ありがとう』と言われて気分を害する人はいません。素直に『ごめんなさい』と言われて、それでもその人を責め続ける人もあまりいないはずです。『しあわせ』と言う言葉は相手も自分も暖かい気持ちにしてくれます。『しんどい・つらい・苦しい』より、『ありがとう・ごめんなさい・しあわせ』の三つの言葉の方が身体と心に良い影響を与えるに決まっています。

 ここに『言葉』の『ちから』があります。

 最近の若い人たちは、すぐ『殺すぞ』と言う言葉を使います。当然本当に殺意があってのことではありません。私たち五十代の北陸人が、若い時によく使っていた、相手を見下したりバカにしたりする意味ではなく、相手に親しみと茶目っ気と、ちょっとした愛嬌を込めた『だぁらぁ〜ねぇかぁ〜』『この…だら』と言っていた、この『だぁらぁ…』と、ほぼ同じニュアンスで使っています。親しい間柄では、この殺すぞの言葉が、いいかげんにしときまし、または、うるさいにまで、その意味は発展しています。それはそれでいいのです。問題は、殺すと言う言葉が本来持っている意味にあるのです。よく、じっくり考えてみてください。『殺す』と言う言葉を…どうでしょう…恐ろしい言葉ではないでしょうか!

 私が子供の頃は、殺すなんて言葉は、その言葉の意味や響き、そしてその行為の怖さにとても口にすることの出来る言葉ではありませんでした。それは私だけではなかったはずです。殺すなんて言葉はある特殊な業界の人たちだけが使う特殊な言葉で、一般に普通に生活している人たちが口にする言葉ではなかったはずです。その言葉が、今、北陸の若い世代だけでなく、全国の若い世代でごく一般的に、日常会話の中で使われています。毎日毎日の会話の中で使い聞いているのです。それが…どうなっていくか…お分かりでしょうか?

 『自分の口に出した言葉が自分の身体や心を変えていく』そんな『言葉の力』は『殺す』という言葉の本来の恐ろしい意味と行為をわからなくさせてしまいます。さらに殺すという実際の行動までも、そのこと事態に恐怖を感じない人間を育てることになってしまうのです。今まさにそんな世の中になっているように…。

 一般人が、流行りや格好ツケで、さまざまな業界で使われている言葉(隠語)を使ったりすることはよくあることです。けれど、その中には、使ってはいけない言葉はあると思うのです。そのひとつはやはり『殺す』という言葉ではないでしょうか。

 言葉に人を変える力があるのなら、今からでも遅くないはずです。

 『ありがとう・ごめんなさい・しあわせ』の三つの言葉を口癖にしていきませんか?世の中が変わるのには時間がかかるかもしれません。でも、もっとも身近な自分自身のまわりは、すぐにでも、今より暖かく優しい世界に変わると思います。

 なぜなら、この三つの言葉には、優しさと思いやりの心が込められているのですから…

合掌

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