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阿弥陀

お坊さんの小話(法話)
浄土真宗


其の四十三
【 護持相続・1 】

 子供の頃…食卓に出てくる茶碗蒸しは通常『丼茶わん』で出てきた。祖母と父親と私と弟の四人家族!決してその丼の茶碗蒸しは四人分をまとめたものではない。ひとりに丼一つなのである。それもプレーンの…椎茸とか鶏肉とかの具は一つも入っていない。夏の食卓の定番…冷奴も例にもれず…ひとりに豆腐一丁が与えられた。

 考えてみれば…何事も豪快な家だった。と言うより豪快な祖母だった。一言『〇〇が美味しかった。〇〇が好きだ』なんて言おうものなら、その〇〇の料理が3日、4日平気で続いた。『ばあちゃん、またいっしょか?』『あんた、好きや、美味しかったっていうたがいねっ』『いくら好きやいうたかで毎日はいらん』『なにいうとる!ばばは、飽きたいうまで食べさすぞ!好きなものは腹いっぱい食べまし!』…何日かおきにこんな会話が繰り返された。祖母の凄いのは『好きものは腹いっぱい食べまっし』を言葉どうり実行することである。お分りだろうか?…腹一杯…そう…それしか作らないのである。

 焼きそばなら…食卓には山のように焼きそば!カレーならカレーだけ!恐ろしいことに、鍋焼うどんが美味しかったといったときなど次から土鍋で鍋焼うどんがでてきた。

 うーん( ̄~ ̄;)…ばあちゃん恐るべし!である。

 食事だけでなく、生活面でも祖母は凄かった。明治、大正、昭和、平成と生きてきた祖母はその時代時代に翻弄されてきた。それ故だろうか、祖母の考え方は硬軟おり交ざっていた。中学の入学式の時、真新しい学生帽をかぶって出かけようとした私を呼び止め、祖母が一言!『男がそんな新しい帽子かぶっとるんじゃない!カッコ悪い!二三かい足で踏んで、ぎゅっと何回かねじって古い感じにしてかぶってかんかい!』おいおい入学式だぞ、喧嘩しに行くんじゃないから。これが『硬』なら、『軟』は…高3のとき、付き合ってた彼女の自宅に初めて遊びに行くことを知った祖母は(一体どうやって知ったのか?今でも不思議?私の部屋に盗聴器でもしかけてあったのか!)、『修!彼女の部屋にあげてもらったら…部屋の扉は開けておけ!…閉めたい気持ちはわかるが開けておけ!そうしたらそのうち彼女のお母さんがお茶など持って来てくれる。扉が開いてるそれだけで、お前の印象は良くなるから。心配せんでも扉はお母さんが閉めていってくれるから。あとはお前の好きにしたらいい!』と言って玄関を送り出してくれた。

 好きにせい!と言われても…ばあちゃん!俺にどうしろと…!(護持相続2へつづく)

釋 完修
合掌
[2010/06]

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